「炎の蜃気楼」非公式個人ブログです 管理人の主観にあふれた女性向け小説です

八咫烏 ~yatagarasu~



電話の向こう、29



電話の向こう、29

「と、言うわけで、実家のある宇都宮へ来て下さい」
「と言うわけって、言われたって、なんで、オレが?」
あいつは、電話の向こうですました声で、恐ろしいことをさらりと言いやがった。
・・・父が会いたいと言っています。来てくれませんか?
父がって、あの名刹の寺の住職がか?
なんで?
オレ?
オレの頭の中は、軽いパニックだ。
息子を怪我させた張本人に、仏の処罰が待っているのか?
それとも、息子をタラし込んだ・・・いや、この場合、たらし込まれたのはオレであって、たらしこんでいないだろう?
騙した?騙していないし、騙されたつもりもない。
誘惑した?オレが、誘惑なんてできるタマじゃねぇ。
まぁ、徳の高い坊さんだ。一目でわかるだろう。
あっ、もしかして、高校生の分際で、息子を凋落した。いやいや、まだ直江は仕事に復帰すると言っていたから、凋落していないし、されてもいない。高校生っていうのが問題ではないと思う。やっぱし、アレだ。オレが男だってことだ。でも、待てよ。それならば反対するだけで、会うとはならない。
説教されるのか、どやされるのか?罵られるのか・・・

「高耶さん、高耶さん、何か悪い方に考えてませんか?」
「そ、そりゃそうだろう?」
「いえ、父は私をこれまで本気にさせたあなたを見てみたい、ただの好奇心からですよ。そんなに、緊張しなくて大丈夫ですから。むしろ、いつものあなたを見せて下さい」
「緊張するなって、言う方が無理があると思うぜ」
「まぁ確かに・・・」
直江は、少し緊張した声を出した。
なんだ、おまえだって緊張しているんじゃないか。

新宿にあずさで行く。湘南ライナーに乗り換えると、宇都宮までは乗り換えなしだ。新宿駅で人混みに尻込みしながら、キョロキョロと湘南ライナーを探す。あずさのホームから湘南ライナーのホームへと、ぐるりと回る。
新宿へ来るまで山が多かったが、新宿に近づくにつれ、隙間ない家並みと、だんだんと空が狭くなる。湘南ライナーに乗ると、今度は、のどかな田園風景が広がって行った。
そして、また街並みが広がっていった。松本より大きな街だ。湘南ライナーが宇都宮を告げた。
「似ているって言っていたけど、こっちの方がデカイじゃん」
オレは、ひとり言を言って、バッグを肩にかけて、改札を出た。
「高耶君!」
「高耶さん!」
似た声が重なって聞こえた。
「あっ」
「よく来たね」
「疲れたんではないですか?」
まるで我先にと言わんばかりに、先を競うように、お兄さんと直江の声が重なった。
「プッ。同時に言ったら、何言っているかわかりませんよ」
「私!」
「私が」
「また・・・」
「私が年上なんだから、私に喋らせなさい」
「私の高耶さんですよ」
「いい加減にして・・・とにかく、よろしくお願いします。」
直江は口を尖らせたが、口を噤んだ。
「まぁ、よく来た。お昼は食べたかい?」
「はい、電車の中で弁当を」
「そうかい、じゃあ、軽く宇都宮餃子でも食べよう」
「兄さん、今高耶さんは弁当をって」
「若いんだ。弁当の1つや2つじゃ保たないだろ?」
「まぁ、もう少しは食べられます」
「ほらみろ」
お兄さんは、勝ち誇ったように直江を見る。直江は、軽く天を仰いで負けたと言った。仲の良い兄弟みたいだ。
馬場通りにある餃子専門店で、焼き餃子や蒸し餃子を食べると、さてと、とお兄さんが腰を上げた。回転の速い店だ。
食べている時も無口だった直江が、その言葉に唇を噛んだのを見た。
「聞いていいですか?」
「なんだね、高耶君」
「あの、なぜ、オレ、私は呼ばれたんでしょうか?ただのご招待とは思えないのですが?」
「まぁ、弟が入院中世話になったお礼をしたい・・・では、納得するわけないね」
オレは、こくんと頷いた。
「でも、その先は、私ではなく弟の口から聞いてくれ」
「お兄さん?」
さっきまで、我先にと、口を開けていたのに・・・
オレは、直江の方を見た。
直江は、真剣な顔でオレを見ていた。
お兄さんは、車をとってくると駐車場の方へ歩いて行った。
通りに出ると、直江が指差した。
「その先に、兄の会社があるんです。本店ですね」
二荒山神社に続く通りは、二車線の広い通りだ。ひっきりなしに車が通る。歩道もゆったりと広くとってある。その歩道に並んで立つと、直江が荷物を持ってくれようと手を伸ばした。
「怪我人なんだから、自分で持つ」
オレは、荷物を肩にかけ直した。

「父に、父に好きな人ができたと、話しました」
「うっ?」
唐突に直江は、車道を見ながら口を開いた。
「相手は高校生で」
高校生?
「でも、父は高校生なのは問題ないと。未成年なのは、年月を待てばいいと」
何を言いだすのだ。
「そして、相手は同性であると」
「ど、同性?」
「好きなんです」
直江は、オレの方を向き直った。
「はっ」
「父が会いたいと、あなたを」
「オレを?」
「初めて本気になった、私の好きな人をみたいと・・・」
「オレ達、付き合っていたか?」
「これからです。ダメですか?」
「ダメじゃないけど?」
「では、なんですか?」
「本気なのか?」
「今、それを聞きますか?」
「だって、おまえ、今、初めて言っただろう?」
「はい、今言いました。本気なんです」
「お父さんは、どう思っているんだ?反対しているのか?」
「いえ、そういうわけではありません」
「かと言って、認めているわけではなさそうだな」
「高耶さん!」
直江は、オレの腕を掴んだ。
「高耶さんは?高耶さんは、私のことどう思っているんですか?」
「今さら、それを聴くか?」
オレはニヤリと笑った。それを見た直江が、泣きそうに笑った。

その時、クラクションが鳴って、お兄さんのベンツが横付けされた。
「オレは今から、判決を聴くため裁判に行く気分だ」
「高耶さん!」
オレは、後ろのシートに腰を下ろすと、拳を握りしめた。




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電話の向こう、28



電話の向こう、28

「義明、ちょっと来なさい」
家に帰るなり、父が本堂に私を呼んだ。大日如来が鎮座する本堂は、荘厳な造りになっている。柱は磨き抜かれているが、年月を感じる重き色合いだ。昼なお暗い本堂は、抹香の匂いが染み付いている。
大日如来の前に父は座ると、静かに手を合わせ真言を唱え始めた。歳は70を過ぎているはずだが、腹の底から出る声は堂々とし、檀家からは、艶のある声の経だと定評がある。こんないい声で送られるならば、成仏できそうだと評判がいい。私でさえ、我が父ながら聴き惚れる。
その後ろに座り、私も父に声を重ねた。
子どもの頃から、自然と耳に入るので誦んじていた。意味もわからず唱えていたのだ。そして、少しずつその意味がわかるにつれ、自分の心が救われていくのを感じていた。仏の教えを請うなど、その点ではかなり早熟であったと言えよう。子どもが般若心経を理解するには、普通の人間より早かったと言える。
父の声に重ねる。次兄は、私より少し声質が高い。父との合唱はその音がかすかに高低が付き、それはそれでいいハーモニーとなる。私は、2人の輪唱が好きだ。
ひと通りの経を唱えると、父は大日如来に深々とお辞儀をした。私も同じように頭を下げる。

「義明、怪我はもう大丈夫か?」
振り向いた父は、僧侶から父親の顔で聴いてきた。
「はい、この度はご心配をおかけいたしました」
「これも、何か仏のお導きだ」
「はい」
「何か、何か諭す意味があったのかもしれない」
「はい」
「義明、言うことはないか?」
「はい、ご心配かけて申し訳ございませんでした」
「それだけではあるまい」
静かに、真実を見抜く瞳で私を見た。
「それと何を?」
「なぜ、あのようなところへ急いで行ったのか、理由があるのだろう」
「はい、お父さん、聞いてください」
私は、腹をくくって話すことにした。
「うむ」
「松本に、好きな人ができました」
精一杯の告白だ。
「そうか」
「高校生です」
「少し歳が離れているが、歳は時期が来れば、問題はなかろう」
父は、驚きもせず淡々とそう言った。
「はい、私もそう思います」
「なぜ、あんな時刻に、松本まで行かなければならなかったのか?なぜ、急いだのだ?」
「冴子姉さんが、私の携帯に出たことで、冴子を私の恋人か奥さんだと勘違いしたようだったので、誤解を解くべく松本まで行った次第です」
「そうだったのか。それで誤解は解けたか?」
「はい。実の姉だとわかってくれました」
「そうか、それは良かったな」
「はい」
「まだ、何かあるのか?」
「複雑な家庭の人です。でも、それにめげず、学校へ行きながら、バイトをし、妹さんの面倒を見ているような今どきできた人です。」
「そうか。それはいい人だ」
父は何度か頷いた。
「高校もそれなりの進学校です」
「うむ」
「お父さんは、事業に失敗して、酒に溺れ、お母さんは、家を出て、一時荒れていて、彼も少しグレたりしたそうです」
「彼?」
「はい、彼はそれでも、妹のために、そして親友の後押しもあり、今は真面目に勉強にバイトに家事に勤しんでいる、まっすぐで、少し照れ屋ですけど、とてもいい人なんです。」
「義明、1つ確認なんだが、彼と言ったな。」
「はい」
「おまえの好きな人は、彼なんだな。彼とは男性を指す言葉だよな?」
「はい」
父にしては珍しく、回りくどい言い方をした。父は、いつも端的で無駄のない話し方をする。
「おまえが好きな人とは、男性なんだな?」
「はい、初めて好きになっんです。本気です。お父さん!反対しますか?反対しても無駄です。私はもう決めました。彼以外、考えられない。私には彼しかいない。こんなに、こんなに・・・好きになったのは初めてなんです」
「義明・・・そうか・・・」
父は、複雑な顔をした。滅多に感情を出すタイプではない。悟りを開いた高僧にありがちな、仏にも似た微笑みをたたえてはいるが、怒るとか、大声を出すとか、声をあげて笑うとか・・・見たことがない。いつも穏やかで、煩悩を超越しているかのようだ。
その父をこんな顔にさせて、私は、親不孝なのかもしれない。でも、これだけは譲れない。
「義明・・・いい目だ。おまえにそんな目をさせる彼を、一度会わせてくれ。連れて来なさい」
「えっ、お父さん、いいんですか?」
「早合点するな。とにかく会ってからだ」
「お父さん!はい!はい!」
「義明・・・」
父もそうだが、私も父の前で大きな声を出したことがなかった。父は、私の嬉しそうな顔も、大きな声も初めてだろう。
「義明・・・そうか、事故になったのは、意味があったのだな」
「お父さん・・・」
父は何度となく頷いた。自分に何か納得させるがごとく。
私は、東京に行く前に、高耶さんを宇都宮に呼ぼうと決めた。



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紅蓮坂舞台感想(千秋楽が終わって)



ミラステ、紅蓮坂舞台感想

千秋楽観てきました。もしかして、ツイッターとかで、細かい点やいろいろ感想など、ご覧になった方も多いかと思いますので、あくまでも私視点で!m(_ _)m

先行チケットを取るとき、すぐ近所のセブンイレブンで発券してもらったのですが、5分前から待機して、10時になったら発券してねと、バイトの高校生の女の子に脅しにも似た依頼をしておいて、ガン見しながらレジ前で待機。笑。その甲斐あってかわかりませんが、最前列を取ることができました。奇跡です。
初日は雰囲気を、2回目は後方だったので全体が観られました。千秋楽は、目の前で出演者が近すぎて、首がグキグキでしたがWWW
でも、そのおかげで小さな表情や目の動きを見ることができました。特に、ひらまき直江の動揺を隠せないキョドッた目や、吐き出すようなセリフを小声で言う時の苦悶の表情。景虎様の背中を抱きしめようと差し伸ばした指がかすかに震えていたり、美奈子を見る時の、観ているこちらが切なくなるような憎しみを込めた目。
"直江だ!直江だ"って、叫びたくなるくらいひらまき直江圧巻です。
マッキーから代わって心配していたのを、忘れてしまうくらいでした。
『転がるような思いで駆け上った坂、平の所などなくて・・・』と、カーテンコールで挨拶していたひらまき直江の頑張りは、すべて集約したかのようでした。

そして、高坂。動けます。上段から飛び降りた時のひらりとかっこよさ。髪をさりげなく直す余裕。ターンの美しさ。後で知ったのですが、バレエ経験者とか。"知っているのに全部を明かさない、まどろっこしくて、ねちっこくて小癪な奴"も、みごとでした。でも、いいポイントで助けてくれたり、嫌味を言う割には"大丈夫か?"とか、美奈子を気遣う所など、原作をよりリアルに表現してました。

そして、小野川美奈子。とてもきれいな方です。その瞳のまっすぐさや、母性を感じる眼差し。直江を一番に思っていることをわかっていて、景虎様を受け入れ、直江に"あなたなのね(景虎様の思い人は)って"言うところ。ジーンとしちゃいました。聖母にふさわしい。景虎様を形は違えど、"護りたい"が、直江と美奈子が同じであるを感じました。また、セリフの言い方が、はっきりしているので、美奈子自身の意思の強さを感じられました。

殿と蘭丸、もうカッケェ~。武将になりきっています。憎らしほどかっこいい。蘭丸は蘭丸で、殿のため裏工作をする必死さ、膝が震えている演技に驚きました。殿は、そこにいるだけで、威圧感も半端ない。料亭で、じっと景虎様を待っている姿は、ライトが落ちて見えないのに、いたんですよね~それなのに、『遅かったな景虎』のセリフと、盃を差し出し、『毒など入っておらんぞ』のセリフには朽木が入っていました。でも、一対一で景虎様と対峙するのは、すごいパワーでしたよ。また、謎の僧侶の一撃で悶える殿は初めて観た姿でした。その後の、松川神社を消滅させる真言を唱える姿は魔王そのものでした。
『最期まで、上杉を手を抜くことなく滅ぼしにかかります』的なカーテンコールの挨拶もぐっときました。

そして、長秀。もう、まあさったら、和み系。カーテンコールは、笑わしてくれました。『一歩前に出ていいですか?』「もう出てるだろ?』の富ショーさんとのやりとりもほんわかするし、『3本いや、2本指に残る』『って、もう1本はなんだ?』って富ショーさんに突っ込まれたり、コール&レフポンスっていうの?長秀の言葉に会場が応える?みたいな、安田→長秀、炎の→ミラージュ、五十嵐→ポンコツ、には、爆笑でした。
その後の色部さんのトークが難しいと、『休憩入れる?15分くらい』の富ショーさんの言葉にどっと笑いが起こり、色部さんは、それでもしっかりまとめてくれました。
一緒に行った友達と言っていたのですが、色部さんの『調伏』がトーンと低く、優しい言い方で、諭すような導くような、力任せの調伏でない言い方がステキと話しになりました。
また、石太郎を抱く様がほんと優しくて・・・カーテンコールにも連れて来て、ずっとトントンしていて、階段につまづいちゃところなんて、胸キュンでした。

マサは相変わらず可愛いです。飛行場で殿の取材をしていてカメラマンが、マサではないかと友達と議論になったのですが、私ともう1人は、違う!1人はマサだ!で意見が分かれました。ご存知の方いたら教えてくださいませ。

そして、やっぱり富ショー景虎。最高ですね。もうもう言うことなし。景虎様なんです。
『冷えるな』で、革ジャンのチャックを上げるシーンは、後ろにいる直江を意識しているのを感じさせるし、タバコを取り出して、直江に止めてくれないのか?止めてくれないなら、やっぱり吸うの止めようみたいな演技も、涙腺にくるし、何より、直江の家や両親を殺させて、直江には散々冷たいことを言いながら、六王教に乗り込んで、『オレは今日機嫌が悪い』静かな怒りをためたセリフ。私怨で復讐に行ったのが、よくわかるその落差に、一番のモエェ〜どころでした。
友達と意見が分かれたのは、美奈子にマフラーをかけてもらって、美奈子が去った後、景虎様がマフラーに口を寄せるシーンが、"これは、やっぱり美奈子を男女の想いで思っていた""いやいや、美奈子の健気さに、美弥ちゃんに通じる思いだ"って、またまた意見が分かれました。まぁそれでも、直江が一番だというところで話は落ち着いたのですがね。
『あんまり頑張ったは使いたくない』と言いながら、『今回はいろいろあって、本当にみんな頑張った』と、言った富ショーさんの目がうるってしてました。
相変わらず、スタッフの方にも配慮する、さすが座長さんです。
今回、細かく書きましたが、記憶違いもあるかと思いますので、そこら辺はご容赦を。
また、3回目のカーテンコール。スタンディングオベーションの際、一番前で、真ん中の私達3人ともデカイので、しゃがんでいたら、富ショーさん、ちゃんと声かけてくれたんですよ。お気遣いありがとうって、ちゃんと目を見て言ってくれて、もう、私、憤死しそうでした。
ミラステweekが終わってしまいました。しばらく、ロス症状が出ると思いますが、"来年もきっとやる!"と、今から期待して貯金します。笑

ミラージュの世界を、スタッフの方々も、役者さんも、脚本家も方もとても大切にしていてくれているのを、一番感じる舞台でした。

今回、北千住でしたが、私は、割と乗り換えも少なく、そう遠くないので助かりました。仕事もなんとか遣り繰りできたし(更新がまちまちになってすみませんでした)千秋楽日は、午前中仕事してからの参戦でしたが。これからも、しばらく休みなしです。
それでも、これが、小さな子どもがいたり、仕事の調整がつかなかったり、新幹線や飛行機で来なければならないとかだったら、3回も観ることはできなかったでしょう。
また、こうしてチケットを取るのを協力してくれて、ミラステに一緒に行ってくれて、あーだのこーだのと、ミラ熱を分かち合う友達がいて、レガーロまで3回も一緒に行ってランチしてくれてありがたいです。
そして何より、こうして、拙い記事を読んで下さる皆さまがいて、ミラージュのおかげで、私はとても充実して幸せです。
ほんとに、ありがとうございます。
ありがとうNさん、かなちゃん。
ありがとうミラージュ。
ありがとう水菜先生。
ありがとう皆さま。

また、J様、コメントありがとうございます。ホントは、当日会場にて、他の方々と同じように名乗り出て交流したいところでしたが、ビジュアル的⁈にミラジェヌ様方とは、一切交流できない恥ずかしがり屋です。でも、同じ空間を共有できて嬉しかったです。


今日から通常運転に戻りますが、今日は、遅番なので、更新は22時頃となります。



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電話の向こう、27

ミラステ、終わっちゃいました。千秋楽行って来ました。今、放心状態です。
カーテンコールのマリーさんの涙と、執行社長の涙にやられました。
すごくいい舞台でした。でも、これが本当の最期のシーンに繋がると思うと感無量です。
感想は、落ち着いてからでないと書けません。。
今日ほど、自分の二次を更新していいのか、本編の重厚さと奥深さを身に染みて感じた後だけに、こんなこの薄っぺらで安易性に、葛藤し、恥ずかしくなった日はありません。




電話の向こう、27

風の冷たい日だった。梅雨のように長雨が続いて、山々はその頂きを白く染めた。山から降りてくる風が病院の自動ドアが開いたとたん、オレの体温を一気に下げた。ぶるっと身慄いした。それは、前を歩いていた直江のお兄さんも、そして、少し後ろを歩く直江もそうだったようで、首をすくめた。
「入院している間に、季節が変わってしまいましたね」
そんな悠長なセリフをはいた。
「ひと月で、十分、季節は変わるさ」
オレは、アルプスの山々を見上げた。奥の山は雲がかかっている。雪が降っているのだ。これから本格的な冬になる。
直江が退院した。今日から会えない。1週間は、実家で静養すると言う。そして、仕事に復帰する。でも、シャワーとか着替えとかまだ不便だから、文化祭から体育祭の代休を利用して、東京へ来て面倒を見てくれないかと言われた。
元々、東京へ行くはずだった。前回の松本のお礼に、東京のいろいろなところを案内してくれる約束だった。事故で怪我したのだから、約束は反故になるのは当たり前だ。何よりこうして無事に退院できたのが一番だ。いっとき意識が戻らず、どうなるのか危ぶまれたくらいだから。
・・・直江が死んだらどうしよう
オレは、居ても立っても居られない心境だった。知り合って間もない。ただのバイト先の客だ。忘れた携帯を預かったのがきっかけで、松本の観光案内をしただけだ。そのバイト代代わりにスマホをもらい、電話やメールをするようになっただけだ。そして、松本の見返りに東京案内をしてくれる。その東京行きの切符のお礼に電話をしたのだ。あいつの電話に出たのがお姉さんで、オレが勝手に誤解した。
それなのに、あいつはわざわざ言い訳しに、ここまで来たのだ。
そして、車とぶつかった。
文字にすると、こんなに単純で簡単なことだった。

・・・もう、二度と直江が目が覚めなかったら・・・
こんなに怖いと思うことは初めてだ。深志の仰木と呼ばれ、怖れられていた自分がだ。
怖いものなどなかった。命を落とすことさえ、怖くなかった。軽い命。虫けらみたいだと思っていた自分の命。実の父親の八つ当たりの的にされ、母親には見捨てられ、どうでも良かった。人のバイクでめちゃめちゃスピードを出して、かっ飛ばして、このまま事故って死にたいと、何度思ったことか・・・命知らずで喧嘩して、相手に怖れられていた、このオレがだ。
それなのに、怖くて堪らなかった。
この小さな瞼がこのまま開かなかったら・・・
それだけの恐怖。
この小さな心臓の音が止まったら・・・
それだけの恐怖。
オレは、何度もあいつの胸に耳を充てた。
こくこくと、その規則正しい直江の命を確認するために。

荷物を渡した。
お兄さんはシートベルトをセットし、エンジンをかけた。
「早く・・・」
なかなか、乗り込まない直江を促す。おまえが、そんな風にもたもたすればするほど離れがたくなる。
荷物を中に入れ、開いたドアを抑えた。座っているお兄さんの姿がかき消される。
片手が不意にオレの後頭部を抑えた。ハッとするよりも早く、あいつの温かい唇に塞がれた。温かいと感じるより早く離れた。その温もりがなくなった分だけ、冷たい風がオレの唇を吹き抜けた。
な、なに・・・?
じゃあと、お兄さんと直江の声がして、車が発信した。オレは今、何が起きたのか理解する間もなく、車が走り出した。その黒い高級車が通りに出て見えなくなると、温もりが去って風に冷やされた自分の唇を指でなぞってみた。
まだそこには、直江の唇の感触が残っていた。
な、なんだ・・・
今のは・・・



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電話の向こう、26


電話の向こう、26


「とりあえず、退院して1週間は家にいろ」
社長でもある兄からの命令だった。
骨折だけなら、そんなに長くは入院しないものらしいが、意識がなかった期間があったので、様子見で一か月の入院となった。
ほとんど骨は付いているし、ギブスも取れた。だから、兄の"1週間、家にいろ"は、入院生活から通常生活へ身体を慣らす意味もあるが、心配をかけた親への親孝行の意味もあるし、暗に高耶さんのことを親に告知しろという意味もある。
母親は、なんとなく高耶さんの存在を理解している。私にとって、どんな存在であるか。入院中はあれこれと、高耶さんが身の回りの世話をしてくれていたこと、何より、私の意識が戻るまでの高耶さんの様子は、それは並大抵ではなかったという。
それを母親は病院関係者から、聞いていた。
私の心拍数を告げる機械音だけがする病室で、ベッドの横に座って、私の手を握りその手に額を押し付け、じっとしていたという。それは、まるで神聖な祈りの儀式のようで、誰もその病室に踏み入れることができないくらい、その空気は神聖であったと言う。そして、一心に目を閉じ、祈るような高耶さんの顔は、神々しいほどであったという。
私の意識が戻ったのは、その祈りが届いたのだと、母親は思っている。
確かに、私の中でこの世への強い執着心の先に、高耶さんの笑顔があった。生まれてこの方、"執着心"など知らない言葉だった私がだ。ましてや、土壇場の土壇場で執着心が存在したことに驚いた。
あのままいつもの私なら、きっと光に導かれるまま歩いて行っただろう。引き戻したのは高耶さん他ならない。
母親は、それをわかっていた。

問題は父親だ。僧侶という職業柄、世間の常識とか、いわゆる倫理観は並大抵ではない。そこへ、未成年で、しかも同性の好きな人ができたと言ったところで、なんと言われるか火を見るよりも明らかだ。
長男は、あの通り高耶さんに会って、高耶さんの人柄を知って、私の性格も熟知しているから、あっさり理解してくれたが、同じ兄弟であっても次兄はどうだ。
姉の冴子は、私の事故の原因を作った負い目があるから、言いたいことがあったとしても、言うわけはないだろう。
だから、問題は、僧侶である父と次兄だ。そのための1週間の静養なのだと思った。

迎えに来た長兄と病院を後にした。
入院費なら、保険の手続きやら、すべて兄が済ませてくれた。高耶さんは、駐車場まで荷物を運んでくれると、
「良かったよ」
荷物を手渡しながらポツンと言った。
「高耶君、世話になったね」
「いえ」
照れているのがわかる。視線を少し横に外すから。
兄が運転席に座ると、エンジンをかける。兄のベンツは、長距離を運転してもほとんど疲れない。
「高耶さん、ありがとうございました。」
「うん」
「電話します」
「うん」
顎て早く乗れとしゃくった。兄が待っていると気を使ったのだろう。
私早くドアを開けると荷物を置くと、ドアの前に立った。
「兄さん待ってるぞ」
「高耶さん、来てくれますね?」
「早く・・・」
「来週、必ず・・・」
「・・・うん」
「義明、行くぞ。小仏辺り渋滞しないうちに」
「はい」
私は、ドアを開けていた手をそのままにして、もう片方の手で高耶さんの後頭部を引き寄せた。かすめるように唇を重ねた。
そして、"じゃあ"と言って、急いでドアを閉めた。
兄は、"じゃあ高耶君"と声をかけ、車を出した。
ミラーには、何が起きたかわかなかったのか、高耶さんがぼうぜんと立ちすくんでいるのが写った。
「義明、私がいるのを忘れないでくれよ」
兄は、小さく笑った。
気づいていたのか・・・
思ったより柔らかい唇だった。アルプスの山に初雪の報せがあったその日、高耶さんの唇はアルプスからの風で冷えていた。





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電話の向こう、25

今日、2回目のミラステ見て参りました。
すごい!初日よりも進化している〜
演出も、ところどころ変化ではなく進化です。DVD撮影のためだけではなく、しっかり原作を大切に舞台を作っているということを感じる変化、いや進化です。
初日は、前から10列目右サイドからの観劇でした。近いので役者さんの表情とかも観られました。今日は、後方真ん中左寄り、なので全体を観ることができました。実は、千秋楽は前方真ん中辺りです。3回とも、いろいろな場所角度で観られるので、それはそれで楽しみです。
そして、今日のMVPは、何と言ってもひらまき直江。確実に、橘直江に繋がっていくのを感じる演技は素晴らしい。直江だ、直江だと観ておりました。
それと、カーテンコールの、ひと言トークでは、長秀だったのですが、いいキャラしてますね。DVDを買う方に向け、特典映像ありですね。笑笑。富ショーさんとも、いいかけ合いでした。
私的には、昭和編舞台、4年続けて、何回か観てきましたが、すべてを通して、一番感激したミラステとなりました。



電話の向こう、25

「高耶君、よく頑張ってくれたよね」
「いえ、オレは何も・・・」
直江が目が覚めて、お兄さんが来た。
お兄さんが帰る時、病院の入り口まで見送って、一緒に歩いてきた。そしたら、お兄さんが真剣な顔でそんなことを言う。
「あの子はなぁ~、少し変わりもんだが、君のおかげでずいぶん変わったよ。あっ、変わりもんが変わったという表現はおかしいな」
お兄さんは、そう言って笑った。
「でも・・・」
「でも?なんだい?」
お兄さんは、優しそうに微笑んだ。まるで、オレの言わんとすることをわかっているみたいだ。
「オレ・・・高校生だし・・・」
「そうだね、まだ高校生だ。でも、歳はとるものだよ。減りはしないから待てばいい。今の君の年齢では、弟が手を出せば、青少年保護育成条例で、捕まりかねないね、ハハハ」
そんな事を小声で言うと、悪戯っぽく笑う。
「そんな・・・」
「それから、何だろう?」
「男だし・・・」
「そうだね、君は男だ。とても男らしいね。そして、弟も男だね。間違いない」
「だから・・・」
「君を男らしいと言ったばかりだけど、歯切れが悪いね。そんな事を気にしていたのかい?」
「えっ、自分だって驚いているんです。ご家族の方ならなおさら・・・」
「そうだね。驚いているよ。高校生なのも、男の子だってことも、うん、確かに、驚いている。でも、変な話なんだが、何せ変わった子だと言っただろ?うちの弟。そんな変わった弟だから、一番驚いているのは、本気で人を好きになったことなんだよ」
「えっ?」
「いやぁ、自分の弟なんだが、ホントに変わっていてね。女性にはモテてるらしいんだが、まったく本気になったことがない。恋愛だけじゃないんだ。すべてなんだよ。仕事も、勉強も、運動も、何もかも、普通の人より恵まれていると思うのに、本気になることがない。寺生まれのせいかね、煩悩がないような、そんな無気力な奴だったんだ。冷めていると言うか、これが困りもんでね・・・」
お兄さんは、抽象的に話しているが、直江本人からも似たような話を聞いていたので、なんとなく理解できる。
「義明さん本人も、同じようなことを言ってました」
お兄さんは、驚いた顔でオレを見た。
「そうか・・・やっぱりな。弟は本気なんだ。初めて本気になったんだ。だから、君の誤解を何としても解きたかった。だから、ここまで来た。あんなに疲れていたんだ。休みなく働いて、実家の手伝いまでして・・・それが、私達の答えだよ。高耶君」
「お兄さん・・・」
「そう言えば、君は弟のこと、直江って呼んでいたね」
「はい。そう呼んでくれって・・・」
「そうか、それも答えだ。」
「えっ?オレにもわからないのですが」
「そうだろう。そのうち弟の口から聞いてくれ」
お兄さんは、オレの肩を2、3回叩くと手を上げて、駐車場へ行ってしまった。オレは、その後ろ姿にいろいろな意味を込めて、深々とお辞儀した。
直江・・・
本名と違う名前で、呼んでくれと言ったのは、見晴らし台の上だ。
松本城を見ながら不意に言った。
オレの家庭の事情を話したから、代わりに自分の秘密をカミングアウトするつもりだったのか・・・
4人兄弟の4番目、その上三男坊。物心ついてすぐ、しばらく養子に出されたそうだ。その相手が直江家だった。
直江家では、とても可愛がってもらった。そして、唯一、子どもらしい日々を送っていたと・・・しかし、3年後、直江家に実子が生まれ、状況が変わった。あっさり実家に戻された・・・こんな短期間に目まぐるしく環境が変われば、子どもだったら変化についていけるわけはない。しかも、すでに自我が芽生えている年齢だったのだ。いろいろな矛盾を理解できなかった。
その頃の直江ができたことは、自分の殻に閉じこもることだった・・・
そのために、少し"変わった"子どもになったのだと・・・
お兄さんは、そのことを知っているのかと言う意味で言ったのだろう。
橘家にしてみれば、大変なことだったのだろう。養子に出すというだけでも、いろいろ言われかねない。それが、程なく戻されたという事実は、養子に出した以上に打撃は大きいはずだ。ましてや、古刹の寺なら・・・世間的にも、親の心境としても・・・
橘家の苦悩や、憂鬱が、直江の名前に込められている。そんな気がした。そんな名前をオレに呼んでくれと言った、あいつの心境がわかるようで理解しきれていない。あいつの中の闇が、直江の名前を呼ばせているのだろう。
直江・・・
そう呼ばれる時、おまえは何を思い、どう感じていたのだろう・・・





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電話の向こう、24



電話の向こう、24


高耶さんの顔を見て、今の自分の状況を少しづつ理解し始める。
そうだ。あの時、信号無視した車が見えた。ヘッドライトに照らされて、必死でハンドルを切った。
・・・高耶さんが待っている。
高耶さんに連絡しなければ・・・
薄れゆく意識の中で、それだけはなんとかしなければと必死だった。
そして、それから何度も光に呼ばれたのに、引き戻してくれたのは高耶さんだった。
「直江!」
この気の強い人が、目にいっぱい涙を浮かべていた。少しだけ、頬が削がれたような気がした。どれだけ心配してくれたのだろうか。
彼に、こんな顔をさせるなんて。

骨折がある程度良くなるまで、ここの病院でリハビリが始まった。
目が覚める前と同じように、高耶さんは、毎日来てくれる。洗濯物まで洗って届けてくれるようになった。
骨折は、目星が付けば退院だ。
「なぁ、あの切符払い戻ししなくちゃな」
そろそろ、高耶さんが東京に行く予定の日が近づいている。
「せっかく、高耶さんお休みなのに・・・でも、それまでには退院できると思うのですよ」
「その身体で、遊べるか?」
怪我をしたのは、左手だ。右サイドから突っ込んで来た車を避けるため左に急ハンドルをきったせいだ。複雑骨折でなかったので、一か月くらいの辛抱だ。今の治療法は、骨に直接の治療で昔より早く治せるらしい。しかし、当分は、片手を吊っているので、着替えるのも、シャワーをするのにも不便だ。
この調子ならば、実家に帰ってしばらく静養することになるだろう。
「高耶さん、お願いがあるんです」
「なんだ?」
退院予定の後、文化の日の連休やら、その上、ちょうど高耶さん達の高校は文化祭やらで、一週間近く休みなのだ。
「退院して実家に一旦帰って、一週間したら、東京に戻りたいんです。仕事も溜まっていますし・・・」
「もう、仕事するのか?」
「不幸中の幸いで、骨折は左ですから、右手ならある程度できます。でも、着替えやシャワーは、確かに大変で・・・」
最初、シャワーするのに、看護師さんが付き添っててくれると言われて、さすがに戸惑った。そんな私の気持ちがわかったのか、高耶さんが強く反対してくれたのだ。高耶さんは、私が目が覚めず、動けなかった間も、身体を拭くことなど、看護師さんにはやらせないで、自分がやると言い張ったそうだ。それが、私には最高に嬉しい。まぁ私の裸など、看護師さんは、プロだから、まったくそんなこと気にしなやしないだろうけれど。高耶さんが妬いてくれるみたいで、その気持ちを大事にしたくて、看護師さんは断った。第一この図体だ。看護師さんには無理がある。
シャワーする最初は、兄が来た時に頼み、次は看護士さんにお願いした。そして、オレがやると高耶さんが甲斐甲斐しい。
そんな慣れている高耶さんだ。せめて一週間でもそばにいていろいろ身の回りの世話をしてもらいたい。
下心を差し引いても、高耶さんは、よく気がつくし、言葉遣いとは裏腹に、とても優しいのだ。
「いっそ、切符このままで、一週間オレがめんどうみてやってもいいぜ」
「お気持ちは大変ありがたいのですが、心配かけた分、少しでも実家に帰って顔を見せないと申し訳ないかと・・・」
「それもそうだな。無理して来てくれていたんだろ?お母さんも。少し帰って甘えてこいよ」
「あ、甘えるだなんて・・・」
「いいじゃないか、おまえ見てるとホント末っ子の甘ったれって感じだぞ」
「えっ末っ子なのは認めますが、甘ったれでは・・・」
「甘ったれだろ?よくわかったよ。なんでそんな性格だったのか。お兄さんやお姉さん達見てると、ホントおまえって甘やかされているもんなぁ〜」
「高耶さん・・・」
「1週間、切符の日にち変更できるか確認して、できたら変更するし、ダメだったら払い戻ししてくるよ」
「ええ、そうしてください。あなたに来て貰えば、早く快復しそうな気がしますよ」
「バーカ言ってら!」
事故ったのは、肉体的にも、仕事の面でも痛かったけど、高耶さんとの距離が近づいたのは確かだ。
私は、もう少し先に進みたいと、その笑顔を見ながら思った。






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電話の向こう、23

Y様、茂木へ行かれたんですか!最近、茂木はサーキット場で有名になりましたが、長閑ないいところです。
田舎暮らしは、茂木を念頭に置いて書きました。ご明察
J様、千秋楽同じ空間を共有できますね。楽しみです。
明日は、箱根駅伝、予選会です。
名門校、盛り返せるか!


電話の向こう、23


「直江?直江!」
直江のベッドに腰掛けて、家の話をしていた。
そっと、あいつの頬に触れてみる。季節の分だけ冷たいけれど、病室は、空調が効いて、直江の命の分だけほの温かい。
胸に耳を充ててみた。規則正しい音がする。機械を通したのでない、命の鼓動が聴こえる。
・・・大丈夫、生きている。
ただそれだけで、ほっとした息が出た。
「直江・・・」
小さく呼んでみた。思いの丈を込めて呼んでみた。
その時、直江の指がピクッと動いた。軽く握っていた人差し指がピクッとピクッとと、まるで草木の芽が出てくるように伸びてくる。
目をこすった。見間違いではないか。
そこに命の律動を感じた。

直江の怪我は、腕の骨折など重症ではない。意識が戻らないだけだ。脳も異常はなかったようだ。なんで目が覚めないのか、医者もはっきりとはわからないらしいが、肉体の疲労なども誘引しているのではないかと言っていた。
すでに、10日ほど眠り続けていた。このまま永遠に眠ったままではないのかと、不安になっていた。ずいぶん怪我は回復している。
何かのきっかけで、ふいに目が覚めることもあると、医者が言っていたから、望みは捨てない。
絶対目がさめると信じていた。
オレを、こんなにしたまま置いていくな。
やっと、やっと、わかったのに・・・

目が覚めないだけで、意識はあるのだと言う。毎日毎日、ひとり言のように、話しかけてみた。
・・・起きろよ
早く、目を開けろよ
オレを見ろよ
そんなことを思いながら・・・

指が動く。ゆっくりと手のひらが開いた。スローモーションのような動きだった。オレは息を飲んで、両手を握りしめて、その動きを励ますように見つめた。
次に、瞼がピクッとピクッと動いた。
「直江、オレだ」
ゆっくり、瞼が開いた。
「わかるか?」
「高耶さん・・・」
まるで、生まれたての子どもみたいに直江は、卵から孵ったばかりのひな鳥のように、オレを見上げて、オレの名前を呼んだ。
「直江!」
先生や看護師が、走ってきた。
「橘さん、わかりますか?」
こっくっとうなづいた。先生は、目に光を当てたり、聴診器を充てたりする。直江の反応を調べた。そして、ゆっくり首を縦に振り、もう大丈夫と言った。それを見た看護師さんがからかうように、嬉しそうな顔をした、
「橘さん、10日も寝ていたんですよ」
直江は、まだ、少しぼんやりしているところはあったが、驚いた顔をした。
「そんなに・・・」
「でも、良かった。身体の方は大したことないみたいだから、」
「そうですか」
「よかったよ。ホント、よかったよ」
オレは、それまでの緊張が解けたように、身体中の力が抜けた。

先生達がいろいろ診察している間に、直江の家に電話をかけた。
目を覚ましたことを伝えると、電話の向こうで、直江のお母さんがうん、うんとうなづく。声が震えている。そして、やっと、声にできたのが、"ありがとう"だった。
・・・オレに?いや、先生に?
直江のお母さんのその言葉に、オレは、返す言葉が見つからなかった。
感謝されるようなことはしていない。
「どうもすみませんでした」
電話の向こうでお母さんは、何を言うの!と、大きな声を出した。
「いろいろ、お世話をしてくれたでしょ?毎日行ってくれたんでしょう。病院の方から伺っているわ。それだけでも充分感謝ですよ。それに一番は、高耶君の熱意が、あの子を目を覚まさせたのよ。」
「えっ?」
「2つの意味で、あの子は、目が覚めたの。あなたのおかげよ」
「えっ・・・」
オレは、よくその意味がわからなかった。
お母さんは、話を変えると、お兄さんがこっちへ向かっていると言った。

「高耶さん、すみませんでした」
「なんで謝るんだよ」
「心配かけて・・・」
「心配するのは当然だ。オレが、悪かった。オレが、変な誤解して、あんなところへ呼び出したから・・・」
「いえ、姉が悪いんです。人の携帯に勝手にでたからです」
まだ、
「義明、言い過ぎだ」
ちょうどお兄さんが来たらしく、入り口で笑っていた。
「義明、少しは休めたか?」
「兄さん、心配かけてすみません。仕事にも穴をあけてしまいました。」
「私も反省したよ。おまえを働かせ過ぎた。過労もあったようだ」
「いえ、これくらい・・・」
「おまえは、子どもの頃からすべてに鈍感なところがあった。自分の体調も気付いていなかったんだろう。」
「いえ!まぁ、確かに・・・」
「若い若いと思っても、そうそう若くないからな」
そう言ってお兄さんは、にっこり笑った。
お兄さんは、オレの肩をポンと叩いた。


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紅蓮坂舞台感想

『電話の向こう』は、お休みします

ミラステ初日、感想

ミラステの初日、行ってきました!
直江役、長秀役、高坂役、美奈子さん役が変更になり心配していましたが、まったく違和感なく、すんなり楽しめました。
というか、よかったです。
マッキーの苦悩の末の直江も良かったのですが、平牧さんの直江は、力みがなく、いかにも若い直江、橘直江でない、笠原直江を感じることができました。
長秀は、ああ、長秀だって・・・あのキャラを崩してない。
美奈子さんも、意志の強い女性色は濃くなりましたが、チームワークもまとまっていましたし、よかったです。
マリーは、やっぱり動きがキレッキレッで、立ち姿も美しいし、声も通って聴きやすい。彼女は、華がありますね〜
まぁ、富ショー景虎様は言わずもなが、本当、景虎様ですよね。もう、感情の表し方、セリフのひとつひとつ、もう、もう、もうぉ景虎様なんです!
間の取り方、声の強弱、トーンなどなど、本当に富ショーさんって上手な役者さんですね。富ショーさんなしで、ミラステ舞台は考えられない。
信長の朽木も貫禄がついて、武将朽木になっているし、蘭丸の役回りも深みが出ました。
今回1番は、高坂!
彼は、こんなにアクティブな人だったなんて・・・もう、高坂を観るだけでも価値がありますよ。と、思うほど、高坂大活躍。
色部さんも、社長も相変わらず、いい味出してますし、舞台挨拶の去り際、色部さんと長秀ったら、お互い背中に手を回しちゃって、ムフ=(^.^)=
マサは、ちょっとたくましくなったけど、やっぱりかわいい♡
もっと書きたいけど、初日なのでこのくらいにしますね。

ぜひぜひ、迷っているなら、観に行って下さい。
今日も若干席が空いていたのが、残念でなりません。当日券もあるそうです。
私め、日曜日と千秋楽も出没しまーす。
あっ、それから、今日、舞台観る前に、レガーロ行って来ました。
写真がアップできないのが残念!
カウンターで瓶ビールと、いきたいところでしたが、お腹が空いていたので、サングリア呑んで、スパゲティ食べました。気分盛り上がりますよ。
舞台中は、少し遅くまで営業するそーです。ミラファンなのバレバレでした!
と、初日感想です。


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電話の向こう、22

明日は、ミラステ。
明日は、ミラステ♪


電話の向こう、22

私は、混沌の中にいた。
これまでの人生を考えていた。
生まれた所は、寺だった。いつも線香の匂いが満ちて、人の生き死に、特に死というものが、身近にある。
・・・なにもかも、死んでしまえば終わりだ。
父も母も、兄弟達も大切に慈しんでくれたと思う。よく育ててもらったと思う。だから、問題なく成長した。ただ何事にも諦めていたというか、冷静過ぎて、おおよそ子どもらしくない子どもと思われていた。
恵まれた家だ。古刹の寺として、県内でも大きな寺だ。檀家も多く、生活に困ったことはない。すべて欲しいものは与えられた。欲する前に与えてもらえた。まるで、忙しい家業の免罪符のように与えてもらえた。湯水のように与えてくれたわけではないが、ちゃんと欲しい理由さえはっきりしていればよかった。だから、物欲というかものがないのかもしれない。
物だけではない。人との付き合いも希薄だった。争うのが嫌いだ。そつなく無難にやり過ごしてきた。
恋愛もそうだった。遊ぶ相手にも事欠かなかった。だから、本気で誰かを好きになったことなんかなかった。疑似体験としての恋愛、ゲームのように恋愛しているのを楽しむことはあったが・・・
思い返せば、私は、何もかも自分から求めることのない人生を送ってきたのだ。

それが、初めてだった。
欲しいと思ったのは・・・
それが、たまたま高校生だった。
それが、たまたま同性だった。
それだけのことだ。
でも、認められるのは世間的にはまだまだ難しい。
自分の中で、天秤にかけている。
本当に欲しいものを諦めて、このまま眠るか、やっぱり、初めて欲しいと思ったのだから、なんとしても手に入れるか・・・

そして、そんな私の手を握ってくれる温かい手があった。
時折、私の手を撫でてたり、おずおずと控えめに、頬を撫でたりもする。
毎日、毎日来てくれた。
朝登校前に顔を出し、学校に近いからと、昼休みにも来てくれる。放課後はもちろん、バイトがある日は、面会時間が過ぎてからこっそり病室に入ってきては、私の頬を撫でて、おやすみだけを言いにきたりした。
時間の許す限り、私の病室に来た。
それは、看護士さんや医者にもからかわれるほど、頻繁に顔を出した。
「橘さん、あの子いつも来てるね。彼女より熱心だね〜」
彼女なんていませんよ。
私は眠ったままだったけど、看護士も医者も声をかけてくれた。

「直江、おはよ」
「直江、今日は雨だぜ」
「直江、今日はバイトだ。あんまり居られない」
そんな事務連絡もあった。
「先生がよ、意識はあるはずだから、たくさん話し掛けてくれって言っていたぞ。そんなもんかな・・・」
彼はそう言うと、聞こえてるかと、耳元で囁いた。
「聞こえていなくても、いても、どっちでもいいや・・・」
彼はそういうと、私に話しかけ始めたのだ。

「今日な、学校で譲が宿題を見せてくれた時、先生が後ろに立っていて、マジ、ビビったぜ」
「オレ、国語系苦手なんだよ。おまえ、古文とか得意そうだよな。教えてもらいたいよ」
もともと饒舌な人ではない。訥々と話をする。
返事もないのに、ひとり言のように、私に話しかけている。
学校の様子、親友だと言う譲さんの話が多い。その話は、ちょっと気分が悪いので、私の顔が歪む。
「どうした?痛むのか?どこが痛いんだ?」
彼はわかっていない。慌てて、掛け布団の上からさすってくれたりする。嫉妬しているんです。と、私は声にならない言葉を発する。

そして、バイトの話、私がゴールドサインと影で呼ばれていた話には苦笑した。
「笑ったか?今、おまえが笑ったように見えたよ。早く笑えよ・・・もっとおもしろい話あるからよ」
そう言うと、目元をぐいっと手で拭った。
ああ、彼を哀しませた。
「今日は、混んでて、上がりが遅くなっちまった」
そんな日でも、必ず寄ってくれる。

そして、家の話。妹さんの話、高耶さんが妹さんを育てたようなもんだと苦笑いしている。
生意気になってきたと言いながら、とても仲がいいようだ。
「ご飯も作って食べさせたし、上履きの洗濯も、勉強も見てやったんだ。親がわりに、お便りも読んだし、書類も書いたんだぜ」
と、どこか淋しげに言う。
「スゲェ?」
自慢げな内容の割には辛そうに言う。
ああ、この人は、心に大きな闇を持っている。家庭的にめぐまれていないようだ。
抱きしめてあげたい。せめて、私の温もりでその穴を埋めてあげたい。
自分と比べてみる。恵まれているのに、空虚な生き方をしている自分。それに比べ、高耶さんはこんなに辛いことが多いのに、こんなに一生懸命生きている。その健気さに胸がいっぱいになる。
こうして、彼は私の病室のベッドの横に座っては、いろいろな話をしてくれた。
毎日、毎日・・・

私は、瞼を開けられなかったけれど、彼の声は届いていたのだ。
彼の話を聞けば聞くほど、彼が愛おしくてたまらない。
ああ、抱きしめたい。
愛してると、言いたい。

「直江?直江!」
高耶さんが、何かに気が付いたらしく、私の耳元で大きな声を出した。
「先生!指が、指が動いた!」
高耶さんが、ナースコールを押した。
「直江!直江、わかるか?オレがわかるか」
高耶さんの声が、はっきりと聴こえる。
重い瞼を持ち上げると、そこには、目に涙を浮かべた高耶さんが、私の顔を覗き込んでいた。






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プロフィール

kihiro0501

Author:kihiro0501
kihiroと申します。
「炎の蜃気楼(ミラージュ)」の非公式二次小説です。
ミラに感謝と愛を込めて、日々脳内妄想爆走させております。
私の設定は、ほとんど、ハッピーエンドが基本です。ご了解とお詫びを先に申しておきます。
今頃のミラですが、よろしくお願いいたします!

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